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でもやっぱり好きだよ。
ずーっと一生おまえが好き。
「へえ、8月7日はバナナの日だって」
打ち掛けの時、和.谷が携帯で記念日アプリを眺めながら言った。
「なんかエロいよなあ、おい」
「でもバナナの記念日って何すりゃいいんだ?」
「みんなでバナナの見せ合いでもするとか?」
「おう、いいじゃんバナナ記念日!」
帰ったらみんなで勝負するかと、元々がバカだし、騒ぎながら戻ったら、こっちはいつも昼メシは食わない派の塔.矢が自販機横で休んでいるのと鉢合わせてしまった。
「楽しそうだね、何?」
「おう、実は今日はバナナ―」
バナナの日なんだってよと振り返ったそこで、おれは初めて尋ねて来た相手が塔.矢であることに気がついたのだった。
「バナナが何?」
「いや、だからさ、これからみんなでバナナ比べしようって―」
言いかけた和.谷を慌てて殴る。
「なっ、なんでも無い。とにかくなんでも無いからっ」
「でも途中まで言ったじゃないか。バナナがどうかした?」
無邪気な顔で見詰められて汗をかく。
どうしよう。絶対言えない。これからそこのトイレでみんなで見せ合いっこしようとしていたなんて!
「だから、えーと、バナナを…」
「バナナを?」
「しょっ、食後のデザートに、これからみんなでバナナを食おうかなって」
「へえ、健康に良いらしいしね」
だったらぼくも混ぜてもらおうかなと、ほんの一欠片の疑いも無く笑われて、おれは皆の物言いたげな視線の集中砲火を浴びながら、半泣きでバナナを買いに走ったのだった。
「いや、おまえが行って来いよ」
「庄司にでも行かせればいいんじゃねーか?」
「やめてください、それくらいならぼくが行きます」
「おお、よく行ったな岡、それじゃ死んで来い」
日本棋院若手棋士&院生の今年の夏の肝試し。
『塔矢アキラに「進藤ヒカルから手を引け」と言う』は今だ実行者0であった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
なんだろう。
「アキラが卵産んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「…進藤、おはよう」
「塔矢っ、アキラがっ、アキラが卵産んだぁぁぁぁっ、どうしよう。どうやって孵したらいいかな」
いや、そもそも一匹飼いで孵るような卵は産まれないし、それ無精卵だからというのを慌てふためく進藤が面白くて、しばらくぼくは黙って見ていることにしたのだった。
【補足】
アキラ→ヒカルがお祭りの夜店の亀釣りでとって来たクサガメ。オスだと思っていたらメスだったらしい。
真夜中、いきなり叫び声をあげるとヒカルが飛び起きた。
「大丈夫か?進藤」
心配そうにのぞき込むアキラにヒカルはしばらく胸を押さえた後にぽつりと言った。
「やな夢見たんだ。よく見るんだけど」
「嫌な夢…どんな?」
尋ねられて一瞬躊躇って、それから言う。
「おまえに…『無様な結果は許さない』って言われる夢」
しばし気まずく黙り込む。
「あ、ゴメっ…でも別に変な意味じゃ…」
言いかけるヒカルの言葉を遮るようにアキラが言った。
「黙っていたけれど、実はぼくにもよく見る悪夢があるんだ」
「へえ、どんなの?」
「キミに…『春までここには来ねえ』って言われる夢」
「へ……へえ」
それから再び黙り込むと、ヒカルとアキラは顔を見合わせ、同時に「ごめん」と頭を深く下げたのだった。
「進藤、ぼくはキミのことがす…………す………スルメイカ!」
「塔矢、おれの方こそ、おまえのことがす……す………すし飯食いたい!」
照れ屋同士の告白大会、第56期。
十秒で撃沈、ドロー。
次回、第57期の開催は未定。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
セリフの後にそれぞれ「ズシャア」とか「ズガーン」とか効果音を入れていただけると幸いです。
くだらなくてゴメンナサイ。
親元を離れ、一人暮らしを初めて、最初の一週間は「の○たま」で過ごし、次の一週間は「ごは○ですよ」で過ごした。
その次は「シーチ○ン」で一週間を過ごし、それが終わると、「納豆」で一週間を過ごした。
「それで、今度はバリエーションを考えて、たまごかけご飯にしようかと思っているんだけど」
言った途端、今まで誰にもされたことが無いような罵倒をされ、それから毎日押しかけられて勝手におかずを作られた。
「信じられねえ、有り得ねえ」
おまえ、今までどんな食育受けて来たんだと甚だ心外なことも言われたけれど、進藤が来てくれてご飯を作ってくれるのは正直嬉しい。
上げ膳据え膳、一局打ったその上に優しくキスまでしてくれるので、ぼくは少しばかりの小言には耳を塞いで感謝して、日々美味しい生活をさせて貰っているのだった。
※※※※※※※※
結構無頓着なんじゃないかなーって。
アイスが食べたいと言って、進藤はいきなり近くのコンビニに入ってしまった。
すぐ出て来るからそこで待っててと言われて大人しく待ち、本当に数分経たずに戻って来たことに少し驚いた。
「随分早いな」
「ん。食べたいもの決まっていたから」
そしてガサガサと揺れるビニール袋を持ち上げて見せた。
「やっぱこういう日はさ、ソーダ味のアイスだって」
自信満々そう言われてぼくはすぐに返せなかった。
よく晴れた日ならばよく解る。最近は6月でも真夏のように蒸し暑い日も多いから、そんな時にさっぱりとしたソーダ味のアイスを食べたくなる気持ちは解るのだ。
(でも、今日は雨じゃないか)
朝からしとしと降っていて、今はほとんど止んではいるけれど、空はどんより曇っている。とても空色のアイスが似合う天気だとは思えない。
なのに進藤はすぐにそれを取り出して袋を破ると食べ始めた。
「今、食べるのか」
「ん。今食べたかったから買ったんだし」
当たり前のような顔で言うけれど、普段進藤はあまりこういう歩き食いはしない。
そもそも家までそう何分もかからないのだから、少し待ってゆっくり家で食べればいいのだ。
それをどうしてと疑問がそのまま顔に出ていたのだろうか。「はい」といきなり食べかけを差し出されてぼくは面食らった。
「何?」
「お裾分け。美味いよ。さっぱりしててすげー美味い」
だからおまえも食べてみろよと言われて仕方無く受け取って一口食べる。
「確かにさっぱりして美味しいけど…」
それでもどうして彼が今、それも家まで待て無い程にこれを食べたかったのかがわからない。
「別に、どーゆーってわけじゃないけどさ」
そういう気分の時ってあるじゃんかと、彼は曇った空を見上げて言うと、ぼくが返したアイスに齧り付いた。
行儀悪い、子どもみたいだ、スーツに欠片が落ちるじゃないかと色々言いたくなって、それでも黙った。
「…そうだね、確かにそういう気分になることもあるかもしれない」
今日棋院の事務室で、海外の棋士の訃報を聞いた。それをふと思い出したのだ。
台湾に行った時に一度だけ会った。現地での手配をしてくれた人で、結局打つ時間は持てなくて、いつかまた会った時にと約束して別れた。
けれど台湾と日本でそうそう機会が持てるわけも無く、数年経った今、その機会は永遠に失われてしまった。
言われてもぱっと顔を思い出すことも出来ず、でもその節くれ立った指だけはよく覚えている。あの指が石を置く所を結局一度も見られなかったなと、それは心の隅に空いた小さな穴になった。
そしてそれはたぶん進藤も同じだったんだろう。
悲しむとか、悼むとか、そんなことをするほど近く無く、でも失ったという感覚が確かにある。
その気持ちが彼に曇天の下、アイスを買わせたのだとやっとぼくにも理解出来た。
「もう一口食う?」
沈黙をどうとったのか、三分の一ほどになったアイスを進藤はぼくに差し出した。
目の前の信号を渡って数メートル歩けば、もうマンションに着いてしまう。普段のぼくなら断るけれど、今は断る気持ちになれなかった。
「…貰おうかな」
正しいとか正しく無いとか解らないけれど。
(でも確かに)
こんな日は、切ない程青い空色のアイスを食べるのが何をするより相応しいと思ったのだった。